母が食事中にむせるようになったのは冬だった
ケアマネジャーが自宅に来た時のこと。
「飲み込む力が落ちてきてますね。むせやすくなってきた段階ですね」と言われた。
その直後、栄養士さんが「とろみ剤を用意してください」と追加された。
それまで「とろみ」という概念がなかった。お茶にとろみをつけるなんて、と思った。
でも説明を聞くと、普通の水や茶は喉を通す速度が速すぎて、飲み込み反射が追いつかないらしい。とろみをつけると、液体がゆっくり喉を通るからむせにくくなるという。
そこからが大変だった。
食事の形態を変えるだけじゃなく、食器も変えないといけないことに気づいた。
母が「飲み込みやすい」と感じる食事・食器の組み合わせを探す作業は、想像以上に試行錯誤が必要だった。
📖 この記事でわかること
-
嚥下訓練食は「舌でつぶせる」区分を目安に選ぶと、本人の負担が減る
-
スプーンは小さく平たいKスプーンが一口量を調整しやすい
-
飲み口が広がったコップは顎を上げずに飲めるから、むせにくくなる
-
食器選びはケアマネさんや栄養士さんへの相談が前提
最初に失敗したこと
介護食をネットで探し始めたのは、その週末だった。
「介護食」で検索すると、ドロドロのペースト状のものばかり出てきた。
栄養バランスが取れた市販品を試してみたけど、母は「食べた感じがしない」と嫌がった。
歯がまだ全部あって、咀嚼力もそこそこあるのに、ペースト状のものを食べさせるのは、本人の能力を奪ってしまう気がした。
ケアマネさんに相談したら「本人ができることはなるべく本人にやってもらう方がいい」と言われた。
だから、「舌でつぶせる」くらいの硬さが目安になるという。
ユニバーサルデザインフード(UDF)という分類があって、区分1から4まであるらしい。
母の場合は区分3「舌でつぶせる」を選ぶといいということだった。
《2年後の自分への備忘録》
-
ペースト状の介護食が全てではない
-
本人の咀嚼力・嚥下力をアセスメントしてもらう必要がある
-
「舌でつぶせる」は中程度の硬さ。本人ができることを残しやすい
Kスプーンに変えた理由
食器を変えるのは、実は食事そのものより重要だと気づいた。
最初、普通のティースプーンで食べさせていた。
でも栄養士さんが「一口量が多すぎる」と指摘した。
一口量が多いと、飲み込み反射が間に合わず、むせやすくなるらしい。
それで調べたのが、Kスプーンという専用スプーンだった。
小さくて、薄くて、平たい設計。
一口量が1〜2gという、ティースプーンの半分以下。
【 Kスプーン青芳 】 食事補助食事介護介護用介護用品介護福祉食器リハビリ筋力低下嚥下嚥下障害えん下食事介助摂食訓練スプーン介助食事
使い始めて2週間で、母のむせが減った。
一口量が少ないから、飲み込みに余裕が出たらしい。
介護者(わたし)の立場でも、スプーンが小さいから「食べさせすぎた」という失敗が減った。
ただ、食事に時間がかかるようになった。
以前は15分で終わっていた食事が、25分くらいになった。
でも母は「むせなくなったから楽」と言った。
時間より安全が優先だ。
《2年後の自分への備忘録》
-
Kスプーンは一口量を自動的に制限してくれる
-
飲み込み反射の遅い人には、小さな一口量が必須
-
食事時間が延びるのは覚悟が必要
嚥下訓練食を試し始めた
春になってから、嚥下訓練食という商品を知った。
介護食とは違う。
訓練用に作られた食べ物で、栄養バランスと食べやすさの両立を目指している。
チーズケーキ、プリン、ゼリーなど、デザート系が多い。
試しに「やわらかデザートチーズ屋さんのレアチーズケーキ」を買ってみた。
1個40g。100kcal。
UDF区分3「舌でつぶせる」に該当する。
やわらかデザート チーズ屋さんのレアチーズケーキ【/やわらか食、介護食、嚥下訓練にも(業務用・ご自宅用)】
冷凍で届く。
レンジで解凍して、Kスプーンで食べさせた。
母の反応は「これはいい」だった。
ケーキを食べてる感覚があるらしい。
味も濃くて、本当のチーズケーキに近い。
介護食特有の「味が薄い」という不満がない。
栄養士さんに相談したら「デザートだけじゃなく、主食や主菜も訓練食で揃えるといい」と言われた。
ただ、毎日訓練食だけだと費用がかかる。
月に1万円は超えそうだ。
だから、週3回くらい訓練食を使って、残りは普通食を柔らかく調理する、という組み合わせにした。
《2年後の自分への備忘録》
-
嚥下訓練食は本人の「食べてる感」が残る
-
UDF区分3を目安に選ぶと、本人ができることを奪わない
-
毎日は費用的に難しい。週に数回の使用が現実的
飲み物をスワローカップに変えた
水分補給も課題だった。
普通のコップで飲ませると、顎を上げないと液体が口に入らない。
顎を上げる動作は、飲み込み反射を遅れさせるらしい。
それで見つけたのが「スワローカップ」という有田焼のコップ。
飲み口が広がっているから、顎を上げずに飲める設計。
介護用コップ有田焼スワローカップ AMX 山徳ヤマトク │ 介護食器嚥下訓練高齢者お年寄り老人シニア顎が上がらないむせにくい飲みやすいマグカップ陶器日本製電子レンジ対応食洗機可誤嚥リハビリ自助具おしゃれ高級感食器
陶器で4,840円。
高いと思ったけど、毎日使う食器だし、有田焼だから長く使える。
取っ手が5本の指で掴める設計になってて、握力が弱い母でも持ちやすい。
飲み口の広さが本当に重要だった。
顎を上げないから、飲み込み反射が自然に起きる。
それでむせが減った。
母も「このコップなら飲みやすい」と気に入った。
見た目もおしゃれだから、来客があっても「介護用具」に見えない。
本人の尊厳を守れるのは、こういう細かいところなんだと思った。
《2年後の自分への備忘録》
-
飲み口の設計が嚥下を左右する
-
顎を上げない飲み方が、飲み込み反射を助ける
-
見た目がおしゃれだと、本人が使いたくなる
3ヶ月使ってみて
Kスプーン、嚥下訓練食、スワローカップの3つを組み合わせて3ヶ月。
母のむせの回数は、明らかに減った。
最初は週に5〜6回むせていたのが、週に1〜2回になった。
栄養士さんに「改善してますね」と言われた。
ただ、これで完全に解決したわけではない。
疲れた日はまだむせるし、食べ物の硬さが少し固いと反応が悪い。
でも「食事の時間が怖くない」という状態から、「気をつけながら食べられる」という状態に変わった。
わたし自身も、毎回ひやひやしながら介助する必要がなくなった。
食事が、また「親子で一緒に楽しむ時間」に戻った感じがする。
《2年後の自分への備忘録》
-
改善には3ヶ月くらいの期間が必要
-
完全な解決ではなく「リスク低減」が目標
-
小さな改善が、心理的な負担を大きく減らす
まとめ|食器と食べ物の選び直しで、安全な食事が戻った
母の飲み込む力の低下に気づいてから、食事そのものより「食器」と「一口量」が重要だということを学んだ。
-
Kスプーンは一口量を自動的に制限する。飲み込み反射が遅い人には必須
-
嚥下訓練食は「舌でつぶせる」区分を目安に選ぶ。本人の能力を奪わない
-
スワローカップのような飲み口の広いコップは、顎を上げずに飲める。これが誤嚥リスクを大きく減らす
-
食器選びはケアマネさんや栄養士さんへの相談が前提。素人判断で選ぶと、本人に合わない可能性がある
-
改善には時間がかかる。焦らず、週単位で様子を見ることが大事
在宅介護3年目の今、「食事の時間が怖い」という状態から抜け出せたのは、こうした小さな工夫の積み重ねだった。
同じ立場の人が、同じ失敗をしないように。



コメント